介護老人保健施設(老健)

介護老人保健施設は、要介護高齢者(要介護1以上)の自宅復帰を目指すため、医師による医学的管理の下、看護・介護を提供する施設で、一般的に「老健(ろうけん)」と呼ばれています。

特徴は上述の「自宅復帰を目指すための施設」という所です。

家内の父は、現在入所している住宅型有料老人ホームの前はこの介護老人保健施設に入所していました。

ですから、介護老人保健施設は実際見ていましたが、実態は「自宅復帰を目指す」ような方はほとんどいないように思います。

本音と建て前が違うように、介護老人保健施設の理念・目的とその実態はかなりギャップがあるように感じていました。

個人的な感想はさておき、介護老人保健施設について見ていくことにしましょう。

 

介護老人保健施設の特徴

公的な介護保険施設で費用も比較的安い

公的な施設ということもあり、入居一時金は不要ですし、月額料金の相場も8~15万円とリーズナブルです。

月額料金の詳細については後ほど説明します。

入居期間は原則として3~6ヶ月の期間限定

在宅復帰が目的の施設のため、入居期間は原則として3~6ヶ月の期間限定になっています。

ですから、特別養護老人ホームと違って終の棲家にはなりません。

施設の体制は充実

あくまでも建前は「自宅復帰を目指すための施設」ですので、医師、看護師、リハビリ専門職などの職員体制は充実しています。

作業療法士や理学療法士等によるリハビリテーション、また、栄養管理・食事・入浴などのサービスまで併せて提供します。

「従来型老健」と「在宅強化型老健」がある

「在宅復帰率」「ベッド回転率」「重介護者の利用割合」の要件でより在宅復帰に貢献しているのが「在宅強化型老健」です。

在宅強化型老健は、介護報酬が従来型老健と比べて高く設定されているため、経営運用のために在宅復帰により力を注ぐ施設が増加しました。

・過去6ヵ月の在宅復帰率が50%以上であること
・過去3ヵ月のベッド回転率が10%以上であること
・過去3ヵ月の要介護4〜5以上の利用者割合が35%以上であること

この3つのポイントを達成している施設を「在宅強化型老健」と指定しています。

 

入居条件

要介護高齢者(要介護1以上)

原則65歳以上で「要介護1」以上の介護認定を受けていることが条件です。

 

介護老人保健施設のメリット

費用が安い

公的な施設ということもあり、入居一時金は不要ですし、月額料金の相場も8~15万円とリーズナブルです。

所得に応じた費用の減免制度があります。

機能訓練が充実している

在宅復帰を目指す施設ですから、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職が常駐し、個別の計画書に基づいた機能訓練を受けることができます。

また、機能訓練のための器具や用具も充実しています。

医療ケアが充実している

医師が常勤、看護師が24時間常駐しているなど、医療ケアが充実しています。

薬も施設から処方され、薬代がかかりません。

 

介護老人保健施設のデメリット

長く居ることができない

在宅復帰を目的としている施設ですので、入所は3~6ヶ月の期間限定で長く居ることができません。

ですから、特別養護老人ホームと違って終の棲家にはなりません。

多床室が多い

4人部屋の多床室が多く、個室や2人部屋は特別室料が加算されます。

 

介護老人保健施設の費用・料金

入居一時金

有料老人ホームのような入居一時金は不要です。

月々の費用

「施設介護サービス費」、「居住費」、「食費」、「日常生活費」といったものがかかります。

それぞれについて説明します。

施設介護サービス費

老健で提供される介護サービス費で、要介護度が高くなるほど負担額が増えます。

また、居室のタイプによっても異なります。

また、職員の配置や体制、対応する処置やサービスなどに応じて、様々な加算項目があり、それに応じて加算料金が発生します。

施設が基本型か在宅強化型によって居室のタイプごとの料金も異なり、在宅強化型の方が若干高くなります。

介護度ごとの施設介護サービス費は以下の通りです。

従来型

居室タイプ 多床室
従来型個室 ユニット型
個室的多床室
ユニット型
個室
要介護1 23,250円 21,030円 23,430円 23,430円
要介護2 24,690円 22,380円 24,780円 24,780円
要介護3 26,520円 24,240円 26,640円 26,640円
要介護4 28,050円 25,800円 28,230円 28,230円
要介護5 29,670円 27,330円 29,790円 29,790円

 

在宅強化型

居室タイプ 多床室
従来型個室 ユニット型
個室的多床室
ユニット型
個室
要介護1 24,660円 22,260円 24,780円 24,780円
要介護2 26,880円 24,420円 27,000円 27,000円
要介護3 28,770円 26,280円 28,860円 28,860円
要介護4 30,450円 27,960円 30,570円 30,570円
要介護5 32,100円 29,640円 32,220円 32,220円

居室タイプは後ほど詳しく説明しますが、ここでは簡単に説明します。

多床室は、複数人で1室を利用するタイプです。

従来型個室は、1室を1名で利用するタイプです。

ユニット型個室は、1名1室のうえ、ユニット(10名前後)単位で共同スペースが設置されているタイプです。

ユニット型準個室は、ユニット型個室で個室同士が仕切りで分かれており壁になっていないタイプです。

居住費

いわゆる「家賃」です。

多床室・従来型個室・ユニット型個室など居室のタイプによって料金が変わります。

また入居者の所得や資産等によって変わります。

所得や資産等が一定以下の方に対しては、その方の負担限度額を超えた分の居住費と食費の負担額が介護保険から支給される「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)」という制度があるからです。

特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)とは、世帯全員が住民税非課税で預貯金等が1,000万円以下(夫婦であれば2,000万円以下)の方を対象に、居住費と食費の負担額が減免される制度です。

この特定入所者介護サービス費の利用には、事前に市町村に負担限度額認定を受ける必要があります。

利用者は、収入や年金に応じて「利用者負担段階」が定められ、この段階別に特別養護老人ホームの負担限度額が決定されます。

「利用者負担段階」は次の4段階です。

第1段階・・・生活保護受給者、老齢福祉年金受給者で本人及び世帯全体が市民税非課税

第2段階・・・本人及び世帯全体が市民税非課税で合計所得金額+課税年金収入額が80万円以下の方

第3段階・・・本人及び世帯全体が市民税非課税で第2段階に該当しない方、市民税課税層における特例減額措置の       適用を受けた方

第4段階・・・住民税課税世帯の方

以上を踏まえた居住費(30日分)は以下の通りです。

居室タイプ/利用者負担段階 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階
多床室 0円 11,100円 11,100円 39,300円
従来型個室 14,700円 14,700円 39,300円 50,040円
ユニット型個室的多床室 14,700円 14,700円 39,300円 50,040円
ユニット型個室 24,600円 24,600円 39,300円 60,180円

このように、本人や世帯の所得が低ければ、家賃である居住費は低く抑えられる仕組みとなっています。

食費

こちらも居住費同様、食費の負担額が介護保険から支給される「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)」という制度があります。

食費の負担限度額は以下の通りです。

利用者負担段階 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階
食費の負担限度額 9,000円 11,700円 19,500円 41,760円

このように、本人や世帯の所得が低ければ、居住費同様、食費も低く抑えられる仕組みとなっています。

 

介護老人保健施設の居室

上述の居住費のところでも少し触れましたが、居室タイプによって居住費は変わってきます。

ここでは、介護老人保健施設の居室タイプについて説明します。

金額の安い順に言えば、「多床室」、「従来型個室」、「ユニット型個室的多床室」、「ユニット型個室」となります。

介護老人保健施設の居室は、「従来型」と「ユニット型」の2つのタイプがあり、古くからある従来型は4人部屋が多く施設全体で介護を行います。

ユニット型はすべて個室で10人程度を1つのユニットとして少人数の介護を行います。

多床室

定員2人以上の、個室ではない居室です。

実際は4人部屋といったイメージです。

ひとつの部屋に、複数人のベッドやクローゼットなどを配置した居室になります。

家具やカーテンなど、可動なもので仕切られているので、プライバシーが保たれにくいデメリットがある反面、その分居住費が安いというメリットもあります。

従来型個室

ユニットを構成しない個室です。

ユニットとは生活単位のことで、10人以下を1ユニットとして、台所・食堂・リビング等の共有スペースが設けられます。

ですから、従来型個室はユニットを構成しない個室になりますので、台所・食堂・リビング等の共有スペースが部屋の周りにない、単なる個室ということになります。

ユニット型個室的多床室

ユニット型個室と同様、10人以下の生活単位(ユニット)で、台所・食堂・リビング等の共有スペースを囲むように個室が配置されています。

ただし、個室は天井との隙間がある可動しないパーテーションなどで仕切られ、完全な個室になっていないところがユニット型個室との違いになります。

ユニット型個室

ユニット型準個室10人以下の生活単位(ユニット)で、台所・食堂・リビング等の共有スペースを囲むように個室が配置されています。

こちらは完全に個室状態で、ユニット型個室的多床室よりプライバシーに優れた居室となっています。

 

高額介護サービス費

居住費や食費については上述の通り、本人及び世帯全体そ所得に応じて負担額が減免される「特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)」がありました。

それとは別に、月々の介護サービス費の自己負担額(1割・2割・3割)の合計が、世帯又は個人の所得によって設定された上限額を超えた場合に、その超えた分が介護保険から支給される高額介護サービス費という制度があります。

負担の上限額(月額)は次の通りです。

利用者負担段階 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階
負担上限額 15,000円(個人) 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
24,600円(世帯) 44,400円(世帯)

高額介護サービス費の支給を受けるためには、市区町村に申請が必要です。

 

まとめ

これまで説明してきた通り、介護老人保健施設は、自宅などに戻るためのリハビリが中心の施設です。

冒頭で述べましたが、家内の父は、現在入所している住宅型有料老人ホームの前はこの介護老人保健施設に入所していました。

私が見た限りでは、実態は「自宅復帰を目指す」ような方はほとんどいないように思います。

本音と建て前が違うように、介護老人保健施設の理念・目的とその実態はかなりギャップがあるように感じていました。

家内の父が要介護4で入所した際は、ショートステイや一時帰宅(私の家で2泊すること)を繰り返せば、そこの老健にはずっといられるようなお話でした。

ところが、家内の父の要介護度が2になったとたん、いきなり退所を迫られるなど、個人的には不信感が一杯でした。

そこは在宅強化型老健でした。

在宅強化型老健の要件は以下の通りです。

・過去6ヵ月の在宅復帰率が50%以上であること

・過去3ヵ月のベッド回転率が10%以上であること

・過去3ヵ月の要介護4〜5以上の利用者割合が35%以上であること

在宅復帰率が50%以上など、無理な話でショートステイや一時帰宅をもって在宅復帰としているはずです。

要介護4〜5以上の利用者割合が35%以上となっていますが、それらの方が在宅復帰などできるはずありません。

ですから介護老人保健施設は、老人ホームというより、入居できるまでの待ち期間が長い特別養護老人ホーム(特養)に入居するまでの一時的な待機施設という意味合いが大変強い施設となっています。

費用が安い公的な施設である特別養護老人ホームに入居できるまで、同様に費用が安い公的な施設である介護老人保健施設で待機するといった感じです。

要介護度が低く、自宅で生活したい人にとっては良い施設ですが、病状や状態が安定しない人には不向きな施設であると思います。

次のページでは、介護療養型医療施設について説明します。

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